野宮神社と源氏物語

 千年も前に書かれた源氏物語に野宮神社が登場します。野宮は源氏物語全五十四帖の内の第十帖、賢木(さかき)の巻に、光源氏と六条御息所(みやすどころ)の別れの舞台として登場します。六条御息所は物語に登場する架空の人物です。

 六条御息所の娘が斎王となり伊勢に赴くことになるのですが、六条御息所が娘と一緒に斎宮に入ります。当時はいくつかあった斎宮の一つがこの野宮神社です。

 斎王とは天皇に代わり未婚の女性が伊勢神宮の天照大神に仕えることで、斎王が潔斎のために身を清めるところが斎宮です。御息所は天皇の休息所のことだったのですが、後に天皇の寵愛を受けた宮女を意味するようになりました。

 源氏物語賢木(さかき)の巻では、光源氏の「変らぬ色をしるべにてこそ 斎垣(いがき)も越えはべにけれ さも心憂く」との言葉に対し、六条御息所は野宮神社で「神垣はしるしの杉もなきものを いかにまがへて折れるさかきぞ」と光源氏に向けて詠んでいます。

 パワースポットとしても若い女性に人気のある野宮神社(ののみやじんじゃ)は別サイトの野宮神社の頁をご覧ください。

野宮神社の参拝・拝観料 無料
野宮神社の参拝時間
 
朝9時より夕5時まで
野宮神社の所在地
 京都市右京区嵯峨野宮町1
野宮神社へのバスと電車
●京都バス「野の宮」下車、徒歩西へ約5分
●市バス「野々宮」下車、徒歩西へ約5分
●嵐電「嵐山」駅より徒歩約10分
●JR「嵯峨嵐山」駅より徒歩西へ約10分
(嵯峨嵐山駅は京都駅から快速で約12分)
駐車場 無し

源氏物語 第十帖 賢木の巻
第二段 野宮の別れ ほぼ原文

 九月七日ばかりなれば むげに今日明日 と思すに 女方も心あわたたしけれど 立ちながら と たびたび御消息ありければ いでや とは思しわづらひながら いとあまり埋もれいたきを 物越ばかりの対面は と 人知れず待ちきこえたまひけり
 遥けき野辺を分け入り給ふより いとものあはれなり
 秋の花 みな衰へつつ 浅茅が原も枯れ枯れなる虫の音に 松風 すごく吹きあはせて そのこととも聞き分かれぬ程に 物の音ども絶え絶え聞こえたる いと艶なり。むつましき御前 十余人ばかり 御随身 ことことしき姿ならで いたう忍びたまへれど ことにひきつくろひたまへる御用意 いとめでたく見えたまへば 御供なる好き者ども 所からさへ身にしみて思へり
 御心にも などて 今まで立ちならさざりつらむ と 過ぎぬる方 悔しう思さる
 ものはかなげなる小柴垣を大垣にて 板屋どもあたりあたりいとかりそめなり
 黒木の鳥居ども さすがに神々しう見わたされて わづらはしきけしきなるに 神司の者ども ここかしこにうちしはぶきて おのがどち 物うち言ひたるけはひなども 他にはさま変はりて見ゆ
 火焼屋かすかに光りて 人気すくなく しめじめとして ここにもの思はしき人の 月日を隔て給へらむほどを思しやるに いといみじう哀れに心苦し
 北の対のさるべき所に立ち隠れたまひて 御消息聞こえ給ふに 遊びは皆やめて 心憎きけはひ あまた聞こゆ 何くれの人づての御消息ばかりにて 自からは対面したまふべき様にもあらねば いとものし と思して かうやうの歩きも 今はつきなきほどになりにてはべるを 思ほし知らば かう注連のほかにはもてなしたまはで
 いぶせうはべることをも あきらめはべりにしがな と まめやかに聞こえたまへば 人びと げに いとかたはらいたう  立ちわづらはせたまふに いとほしう など あつかひきこゆれば いさや ここの人目も見苦しう かの思さむことも 若々しう 出でゐむが 今さらにつつましきこと と思すに いともの憂けれど 情けなうもてなさむにもたけからねば とかくうち嘆き やすらひて ゐざり出でたまへる御けはひ いと心にくし  とて 上りゐ給へり  はなやかにさし出でたる夕月夜に うち振る舞ひたまへるさま 匂ひに 似るものなくめでたし
 月ごろのつもりを つきづきしう聞こえたまはむも まばゆきほどになりにければ 榊をいささか折りて持たまへりけるを 挿し入れて 変らぬ色をしるべにてこそ 斎垣も越えはべりにけれ  さも心憂く と聞こえたまへば 神垣はしるしの杉もなきものを いかにまがへて折れる榊ぞ と聞こえたまへば  少女子があたりと思へば榊葉の香をなつかしみとめてこそ折れ おほかたのけはひわづらはしけれど 御簾ばかりはひき着て 長押におしかかりてゐたまへり
 心にまかせて見たてまつりつべく 人も慕ひざまに思したりつる年月は のどかなりつる御心おごりに さしも思されざりき  また 心のうちに いかにぞや 疵ありて 思ひきこえたまひにし後 はた あはれもさめつつ かく御仲も隔たりぬるを めづらしき御対面の昔おぼえたるに あはれ と 思し乱るること限りなし  来し方 行く先 思し続けられて 心弱く泣きたまひぬ
 女は さしも見えじと思しつつむめれど え忍びたまはぬ御けしきを いよいよ心苦しう なほ思しとまるべきさまにぞ 聞こえたまふめる  月も入りぬるにや あはれなる空を眺めつつ 怨みきこえたまふに ここら思ひ集めたまへるつらさも消えぬべし  やうやう 今は と 思ひ離れたまへるに さればよ と なかなか心動きて 思し乱る
 殿上の若君達などうち連れて とかく立ちわづらふなる庭のたたずまひも げに艶なるかたに うけばりたるありさまなり  思ほし残すことなき御仲らひに 聞こえ交はしたまふことども まねびやらむかたなし
 やうやう明けゆく空のけしき ことさらに作り出でたらむやうなり
 暁の別れはいつも露けきをこは世に知らぬ秋の空かな 
 出でがてに 御手をとらへてやすらひたまへる いみじうなつかし 風 いと冷やかに吹きて 松虫の鳴きからしたる声も 折知り顔なるを さして思ふことなきだに 聞き過ぐしがたげなるに まして わりなき御心惑ひどもに なかなか こともゆかぬにや
 おほかたの秋の別れも悲しきに鳴く音な添へそ野辺の松虫 悔しきこと多かれど かひなければ 明け行く空もはしたなうて 出でたまふ  道のほどいと露けし
 女も え心強からず 名残あはれにて眺めたまふ  ほの見たてまつりたまへる月影の御容貌 なほとまれる匂ひなど 若き人びとは身にしめて あやまちもしつべく めできこゆ  いかばかりの道にてか かかる御ありさまを見捨てては 別れきこえむ と あいなく涙ぐみあへり